外壁

【外装材に適している石材とは?】

工法の解説の前に、まず石について簡単に触れたい。
外装材としての、石材に要求される機能は、耐久性とメンテナンス性、高級感だと思う。総合点では、圧倒的に御影石が優れている()。大理石や最近流行りのライムストーンは酸に弱く、酸性雨などで 侵蝕されやすいのでお勧めできない。砂岩もよく外装に用いられる。砂岩は、耐久性は問題ないが、吸水率が高いため汚れが付きやすく苔や排気ガスによって数年経つと黒ずんでくる。その点を除けば面白い石だと思う。同じく割肌を使う石として石英岩や天然スレートがある。性能的には御影石に近いのだが、この系統の石はほとんどが既製品で輸入されているため、寸法の自由度がなく石厚の薄い物が多い。したがって、寸法や厚さを事前に調べる必要がある。

石種耐久性メンテナンス性高級感寸法自由度価格
御影石
大理石×××
ライムストーン×××
砂岩×
石英岩×
天然ストレート×
表 石種別の外装材としての適性

汚れ防止処理の効果

次に外装用の石材に用いられる各種の汚れ防止処理について簡単に解説する。

(1)表面処理
表面処理剤の耐用年数はせいぜい2、3年である。したがって、いくら表面処理を行っても、大理石やライムストーンを外壁に使うこと自体が本筋ではない。どうしても使いたいのであれば、後のメンテナンスコストはかなりかかることを発注者によく説明し、了解のうえで使用すべきである。

(2)裏面処理
裏面処理は根石の裏込めによるエフロや、結露によるシミを防ぐために行われる。前者に対しては、ある程度効果は期待できるものの、そもそも裏込めモルタルの量を適量に抑えていればそれほど心配いらない。後者に対しては、「やらないよりはマシ」といった程度である。現場では常に予期せぬ事態が発生し、その場で石を加工して調整することが多い。つまり、工場で裏面処理をしても未処理部分が出来てしまう。結露対策としては、石と軀体との間に現場発泡ウレタンを入れるとよい。もっとも単価的にはかなり高額になる。また、石を押し出してしまう恐れもあるので注意が必要だ。

【乾式工法の基本】

(1)基本システム

乾式工法は、軽量化、工期短縮、剥離防止、耐震性や耐風圧性を満たすために開発された 工法である。図1。 耐震性能を確保する方法には、 ロッキング(石の回転で地震力を逃がす)方式とスウェー(石が左右に動くことで地震力を逃がす)方式の2通りある。スウェー方式の方がより耐震性に優れるが、金物のコストがロッキング方式の2倍になり、取り付け単価も3割程高くなる。どちらも耐震性に優れた工法であり、安全基準を満たしたファスナーを使用すれば、阪神・淡路大震災クラスでもほとんど無傷である。

図1 乾式工法システム

①1次ファスナー方式(参考)
L字型の1次ファスナーに前後と垂直の調節用のボルトやアンカー取り付け用の穴がルーズになっているので、高さと左右の調節はそこで行う。張り代が50mmと少なくてすむが、施工精度のバラツキが大きい

②2次ファスナー方式
L字型の1次金物と平らな2次金物をアンカーで躯体に取りつけ、石は2次金物に取りつける。1次金物と2次金物の接合部のルーズホールで前後左右を調整する。高さと方向の調節は1次方式と同じ。張り代は70mm以上となるが、施工精度は安定する 

防水性に関してはシール目地となるため期待できない。シール目地をカットして水抜き用のパイプを設けるなど、設計段階から処理をしておく必要がある。なお、施工手順を図2にまとめたので参考にしてほしい。

図2 乾式工法の施工手順

1.水糸を張る 
・1段目の石の天端になる位置に陸墨と通り心墨から計り出して張る
2.根石の位置決め
・根石(1段目の石)を水糸に倣って位置決めする
・下端は躯体なので垂直方向は石ごと下げ振りで確認するか躯体に仕上げ墨を出して、それに倣う
3.仮留め・固定
・ステンレス線や止水剤などで仮留めをして金物で固定する
4.裏込めモルタル挿入
・根石裏側の呑込み部分の高さに裏込めモルタルを入れて下端を固定
5.2段目以降は1~3の繰り返し
・2段目以降の石は、下端の出入りは下段の石の天端に合わせて、天端は水糸に合わせればよい
注 施工を開始するのは、張り石に取り合うサッシがすべて取り付いてから

(2)納まり上の注意点

乾式工法の割付けは芋目地にすべきである。馬目地は芋目地に比べて耐震性能がかなり落ちるからだ(スウェー方式の金物を使えば別)。また出隅および柱型の納まりは、コーナー役物は避けた方が無難だ。コーナー役物は幅が100㎜程度なので、専用ファスナーが使用できず、ステンレス線で躯体や左右の石に緊結するといった従来の方法が採られるからだ。同じく留め加工も避けたい。石は硬い反面非常に脆いので、鋭角の部分に小さな欠けが生じやすくなる。

図3 足元の納まり

足元は、地震時に床の動きと壁の動きが
異なることがあるため、目地を大きめに
切って、シーリングを施す必要がある

笠石と壁や立上がりの取合いは、笠石のチリを10㎜くらいとるとよい。施工誤差や加工誤差を吸収でき、きれいに仕上がる。足元廻りは最も工夫が必要なところである。乾式工法は地震時に、張り石がある程度軀体と別に動けるため、軀体と直結している床とは動きが別になる。その結果、床と壁の石が衝突して破壊される可能性が非常に高くなる。阪神・淡路大震災の際にも、外壁の足元廻り被害が最も多かった。対策としては、床面と壁面の取り合いに大きめのシール目地(10~15㎜。深さは壁石の呑込み深さと同じ)をとるとよい(図3)

なお、根石(一番下の段の石)は、呑込み部分に裏込めモルタルを入れて固定している。乾式工法といいながらもここだけは湿式なのだ。より完全な乾式工法にするならば、根石の下端も金物を使った方がよいが、施工的にかなり手間を要す。金物で留めるなら図面に明記しておく必要がある。ほとんどの建築石材業者は裏込め方式で見積りをするからだ。 

【乾式工法のチェックポイント】

(1)使用石材
石の寸法が大きいと、反りや耐風圧性、石材単価に問題が生じ、小さいと金物単価や施工手間が高くなる。こうしたことを考えると、おおむね0.5㎡/枚くらい、石厚は25-30㎜くらいが適当だ。ただし、 低層部に施工する場合、石の寸法を考慮すれば20㎜厚も使用できる。ダボの位置は、強度計算上は両端からそれぞれ、石材の横幅寸法の1/4になるが、現実には両端から50,100,200㎜といった分かりやすい寸法で施工している。

(2)目地
乾式工法においては目地は非常に重要だ。地震時に石が動ける範囲が目地幅で制限されるからだ。目地幅はその建物の設計層間変位値と使用する石の寸法で計算でき、おおむね6~8㎜くらいになる。石がある程度動けないと意味がないため、当然シール目地になる。

(3)アンカー
強度からいえば圧倒的に先付けアンカーがよいのだが、現実にはRC軀体打ちの前にサッシ図と、石の割付け図を決定しておくのは無理なので、後施工アンカーが多い。後施工アンカーには大きく分けて2タイブある。1つが打ち込むことでアンカーの奥の部分を広げる役目をする楔が独立しているタイプ(グリップアンカー)で、もう1つがその楔と取り付け用のボルトが一体になっているタイプ(ボルトタイプアンカー)である。信頼性は後者の方が優れている。

(4)ファスナー
取付け金物(ファスナー)は、1次金物方式と2次金物方式がある(図1)。1次金物方式は張り代が小さく施工できる(石裏から軀体までが50㎜以上)。また、金物の垂直を出すのに調整ボルトで調整するので、理論的には非常に正確に位置決めできる。ただし、①実際には金物を取り付けるのに下げ振りや水準器はほとんど使わない、②調整ボルトがあるため軀体と金物の間に空間ができる(その空間を止水材などで裏込めしなければならず、手抜きの対象となる)、といった理由によって施工業者による品質のバラツキが出やすい。2次金物方式は張り代が大きくなる(石裏から軀体までが70㎜以上)。また、L型の1次金物を軀体に直接アンカーで取り付けるため、施工によるバラツキは小さくなる反面、金物の垂直性は軀体精度に依存するので、高い軀体精度が要求される。

(5)サッシとの取合い
サッシとの取合いの目地は10㎜くらいにすべきだ。現在、ほとんどのサッシが鉄筋などを介して軀体に溶接で固定しているため、仮付けの位置からずれが発生しがちだからだ。このずれを吸収するためには10㎜くらいが適当だ。

【湿式工法の基本】

戦前までは、石張りといえば4寸内外の厚い石を使うのが一般的だった。そのころの石裏は割肌面でモルタルの付着もよかった。しかし、戦後になって30㎜前後の薄い石を使うようになって事情は一変した。元来、湿式工法はモルタルの接着力に依存している。ところが石厚が薄くなると、熱による石の膨張や反りが繰り返され、その動きにモルタルがついていけずに剥離する。運よく軀体に付着していても地震などで軀体に亀裂が発生すれば、石にも影響を与える。

したがって、RC下地に湿式工法で施工することは、現在ほとんどない。乾式工法なら、安全であり工期短縮とそれに伴うコスト削減が期待できるからだ。したがって、解説する意昧はあまりないのだが、参考までに簡単に説明しておく。

湿式工法はモルタルの接着力に依存しているため、石裏と軀体との間隔が重要になる。大きすぎても少なすぎてもそれぞれ問題が発生する。この寸法にはこれといった決まりはなく、施工者の経験と勘で決めている。筆者の場合30㎜くらいが適当だと思っている。なお、乾式工法と同様に、笠石との取合いにはチリを10㎜くらいとりたい。 

湿式工法の概要を図4にまとめた。工法としては単純だが工期はかかる。 裏込めモルタルが硬すぎると隙間ができるので柔らかめのモルタルを使うからだ。そのため1日に1~2段の施工が限度であり、無理をして積み上げると裏込めモルタルが石を押し出してしまう。

図4 湿式工法の施工手順

1.仮留め
  ・軀体に配筋しておいた鉄筋にステンレル線を絡ませ止水材などで仮留めする
2.モルタル充填(1回日)
  ・横1段の仮留めが出来たら軀体との間に裏込めモルタルを高さ1/3程度充填する
3.モルタル充填(2回日)
  ・モルタルの水分が引いてから再度高さ1/3程度モルタルを充填
4.次段の石を仮留め
  ・手順は1と同じ
5.モルタル充填
  ・下段の残り部分と今回の石の高さ1/3程度モルタルを充填させる
  ・以下1~5を繰り返して積んでいく

【湿式工法のチェックポイント】

(1)石のモジュール
湿式で施工するのは、鉄平石などの乱張りの施工に限られている。これらは石の性質上ある程度寸法が限られているので、石の寸法は必然的に決まる。

(2)剥落防止のポイント
接着剤の使用には問題がある。メー力ーも外壁(日光や風雨に晒される場所) での使用を保証していない。モルタルの信頼性も接着剤と同じ程度である。引き金物も乱張りの場合はとらない。

(3)白華防止のポイント
モルタルのセメント量をできるだけ少なくする。裏面処理も有効だが施工単価がかなり高くなるし、完全な効果は期待できない。

(4)目地
乱張りの場合、目地幅は10㎜内外である。深さはおおむね目地幅の半分で、仕上げは洗い目地(刷毛目地)となる。

参考文献:建築知識9月号 特集:まるごと石辞典